徒歩十分のロードムービー / 第一話

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前書き

昔書いた私小説。目次はここから。

ご拝読いただければ幸い。では本編どうぞ。

徒歩十分のロードムービー

僕は池袋の大書店にいた。

別に欲しい本はなかったが、背表紙を指でなぞりながら、面白いことを探してふらついていた。フォークソングが好きならミスタータンブリンマンでも探すのだろう。僕は言葉のほうが幾分か好きだ。僕の背よりも高い本棚に囲まれていると、僕はなぜ小説を書いているのかわからなくなった。

小説でも新書でも楽譜でも、記録物は何がしかの真意を含んでいて、本の山はそんな真意の堆積で重い。非力な僕が本棚を押したところで、びくともしない。何千年分の含蓄は相当に重い。限られた場所で重いと言えば密度があり、密度があるとは詰まっていて、詰まっているとは隙間がない。時代の新生児たる僕らの入る隙間がない、そう思うと、なぜ書いているのかわからなくなった。

今では書くことが苦痛で仕方が無い。書き上げようともなにがどうなることもなく、そんなものの為に時間を割いていることが気に食わない。

ただそれ以上に、書いている時は昔のことを詳細に思い出してしまって、これが辛くて仕方がない。昔のことの大半はもうなくなっているか変化していて、それを思うと堪えきれず憂鬱になる。

僕の趣味も悪い。

僕は無くなってしまうようなもの程、大切に思うたちで、せめて自分の作り物くらい出来ることなら、大切な事で埋め尽くしたいと思ってしまう。おかげでどうしても思い出したくないことを思い出さなくてはいけない。思い出した時には傍になく、もうなくなったと嫌でも気づかされる。

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