嫌われ者として言いたいことがある

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世間から疎んじられてどれぐらい経ったのか、正直思い出したくもねえからわかんなくなっちまった。人の口塞ぐ割には、べらべら喋るわけでもねえ空気の読めねえやつけど、俺にだって言いたいことのひとつやふたつあるんだ。

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嫌われ者になっちまった話

他人の昔話なんざ、この世で最もクソ喰らえってのは重々承知だけどよ、もうすぐ消え去る身になってみると、わかっちゃいるけどやめられないのかね、急に話してみたくなっちまった。

俺は、元々お貴族さまで朝から晩までパーティに明け暮れる、そんな狂った世の中で幼少を過ごした。え? 今の俺の身なりからは想像がつかねえって? まあ、今はこんなドクロマークあしらったロックな出で立ちだけどよ、待ってな。俺の一生は落ちぶれていくだけだった。生まれた時がピークさ。すぐにお前さんにも楽しく聞けるとこまで身を落とすさ。
木彫や陶磁、時には金銀の装飾で彩られた部屋で過ごしてた。潰れねえように胸ポケットにしまわれてたんだな。大事にされてたんだなって今にして思うよ。

俺の名前がお貴族さまの内輪から世間様にまで知れ渡るのにそう多く時間はかからなかった。自分でいうのもなんだけどさ、目には見えない魅力があったんだ。人を幻惑するような、そういう類の魅力さ。「お前といると心が落ち着く」ってよく言ってくれてた奴も多かった。ただ、今はそんな粋なやつも少なくなっちまった。

あの頃は楽しかったさ。それこそ綺羅びやかでお高そうなレストランにも顔を出した。ドレスコードが敷いてあるような、そういう店さ。何万もする値打ちもんのグラス片手に優雅に話す女をいつも見てたもんさ。その女の香りも確かで、俺といい勝負してたよ。俺も時にはいい匂いをさせるのさ。

映画館にもよく行った。あの頃はまだトーキーにもなってねえ、白黒の映画でよ。お前さんはしらねえと思うがオーケストラがその場で音出してたんだ。それに騒がしかった。隣のやつがうるせえのなんのって、場面によっちゃ少しは黙ってくれよとも思う時もあったけど、なんていうかな、一体感ってやつだ。それがあったんだ。いい映画はみんな黙らせちまうのがよくわかった。あれだろ? 今の映画はみんなお行儀よくしてるんだってな。もうかれこれ何年も行ってねえけど、傍から聞いてるとつまんなそうに思うよ。

そんな優雅な生活をしてた俺が一番好きだった場所は鉄道だった。旅が好きなのさ。車窓を上げて、気持ちいい風が車内に迷い込んできて代わりに俺が姿を変えて過ぎていった景色に残るんだ。そしたら、俺はその景色の一部になるのさ。旅はいい。あの頃の鉄道の中も賑やかでワイワイ騒がしかったけど、嫌な気分じゃあなかった。レールと車輪がぶち当たるあのけたたましい音が薄い壁をつき抜けて会話の雑音をうまい具合に打ち消すんだ。ちょうど、レストランのBGMみたいなもんさ。他人の会話も紛れて気にならなくなる。

長らく列車には乗ってねえ。出禁てやつさ。みんな俺を嫌って爪弾きにしやがった。煙たがられてんだな。長いこと生きてて大切な場所をひとつ、またひとつって俺から奪っていったよ、世間ってやつは。

かっこよさなんて結局ブームなのさ。若いやつが俺とつるんでるってだけで幅きかしてるなんて時代もあったが、それも今は昔。今じゃ俺の話をするだけで恥ずかしいらしい。なんでも「あんなやつといると体に悪い」んだとさ。そばにいるだけでもダメなんだとさ。そんな俺から言わせりゃただの噂が世界中に知れ渡って、お前さんも知ってる通りのこのザマさ。居場所なんてありゃしねえ。

そんなでも、ものは考えようで、そんな俺でも愛してくれるやつが少なからずいてくれてよ、そんな心底好いてくれるやつらとだけつるめるようになったのは幸せだと俺は思ってる。誰にも邪魔されず二人っきりで、個室なんか借りてさ、静かに時を過ごすんだ。俺とそいつの間じゃ言葉なんて意味ねえんだ。ただ黙って酒を飲むんだ。そんなのもいいと俺は思ってる。

相手はどうかって? そんなこと知ったこっちゃねえが、俺を好きでいてくれるやつは変なやつが多いのさ。昔からそうで、作家や記者みたいな物書きしてるやつから、刑事や経理まで幅広く付き合って来たが、どいつもこいつも我慢して生きてるようなやつばっかだった。そんなやつら曰く、ほっと一息つくんだとさ。そんな一息もため息混じりで、俺はただの憂さ晴らしかよと思うとなんだか寂しい気もしないでもないけどよ、それが俺なりだったんだろうな。俺なりでもいいさ。人の役にたってたんなら、それで燃え尽きるのも悪るかねえ。

ただ、そんな俺なりが煙たいやつも多かったんだろうな。特に女には好かれなかった。子供の教育に悪いって言われた日には顔もあげられなかったね。女でも好きでいてくれるやつも少なからずいたけど、なんていうかな、俺の主観でしかねえけど、さばさばしているような、男まさり、中性的なのばっかさ。女らしい女は見向きもしなかった。そんな俺は大体いつも男とばかりつるんでたよ。男なら俺といてもそれなりに様になるのさ。でも俺といる女はどうも世間様から嫌われるらしい。「子供の教育に悪い」からさ。それでも様になるやつもいたよ。偉そうだけどさ、そんな女は最高に抜群だった。

長いこと話しちまったみてえだな。もうそろそろ燃え尽きそうだ。お前さんには悪いことをしちまった。いずれ、忘れ去られる運命のこんなくだらねえやつのこんなくだらねえ昔話に付き合ってもらって。灰になっちまう前に一言言わせてくれ。俺を愛してくれてるやつをそんなに悪く思わないでくれ。俺のせいでそいつがレッテルはられちゃ、俺は泣きなくなっちまう。俺は泣いちゃいけねえのさ。だって湿気ちまうだろ。それはダメさ。

最後の一欠がちりちり言ってらあ。さよならだ。間違っても別の俺を道になんて捨てんじゃねえぞ。迷惑かけんな。仲良く行こうぜ。じゃあ、バイナラ。

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