物を持たない暮らしをしたかったら自衛隊に行ってみればいいという話

シェアする

敢えてトンチンカンなことをこれから語ってみたい。目的はトランク一つに納めるとか、冷蔵庫を断捨離して外食で済ますとかが、いかに価値がないかを再確認するためだ。

広告

「自分の持ち物はリュックに背負えるだけさ」

僕が自衛官だった頃はまさにその通りの生活で、貸与された制服含めて衣嚢という馬鹿でかいショルダーバッグに全て収まっていた。

自衛官は引っ越しや短期出張が多い。その為、命令が下れば即オリーブドラブ色のトラックに自分の生活できる全ての荷物を運び込むことができる。

なぜそうするかと言えば必要に迫られているからだ。何かあった時はできるだけ素早く現場に到着しなければいけない上に、そこにどれだけ滞在するか出発時に目処が立たないことがほとんどだからだ。

もし、自分で運べるだけの荷物しか持たない生活をお望みであれば是非入隊してもらいたい。そんな自発的な価値観に客観的な価値観が付与できる絶好のチャンスがそこに転がっている。

「外食オンリーで冷蔵庫はいらないってわかったよ」

営内者生活の自衛官には三食が保証されている。毎日食堂での栄養のバランスが取れた充実した飲食ライフを半オートマチックに過ごすことができる。

駐屯地によって味のばらつきはあるが、僕が経験した駐屯地の食事はどれもおいしいものだった。特に滝ケ原駐屯地の飯は格段にうまかった。水が美味しいところはご飯も艶やかに炊き上がるものだと感じた。

あまり金の話は下世話で恐縮だが、この三食は全て無料で振舞われる。至れり尽くせりだ。

同様の家電に洗濯機がある。この要不要もミニマリスト界隈ではよく議論になっていた。

自衛官はもちろん自分で洗濯をする。僕が入隊した武山駐屯地ではワンフロアに7台あったと記憶している。同じ階に無料コインランドリーがあるのは喜ばしいことだ。

冷蔵庫や洗濯機を捨て去った方は是非とも入隊を考えてみてもらいたい。明日の日本の平和を守るのはあなただ。

「最小限、いらないものは捨てれば楽になるぜ」

入隊の暁には入隊許可証と冊子が配られる。その冊子にはこれだけ持ってくるようにと持ち物リストが記されている。

概ね林間学校や修学旅行を思い出していただければ幸いだが、それと似たようなものだ。

歯ブラシ、タオル、下着etc…

ここで朗報がある。よく何を捨てればいいかわからないというミニマリストを目指している御仁がおられると思うが、教育隊の教官が要らないものを選別してくれる上に実家に送り返すよう”指導”してくれる。軟弱者にはうってつけだ。

最悪三万ほどの現金と通帳、あと認印さえあればなんとかなるようになっている。

もう悩む必要はない。駐屯地に足を一歩踏み入れたその瞬間に君はもうミニマリストの仲間入りだ。

「ホテルorテント暮らしに憧れる」

ホテルとまでは豪勢に行かないまでも、ミニマリストが求めている空間はスイートルームや煌びやかなものではないと信じて以下を述べたい。

自衛官になればまさにシングルベッドと机とロッカーだけの簡素な生活を手に入れることができる。おまけに風呂は大浴場だ。大きい風呂にどっぷり浸かって足を延ばすとふくらはぎから疲れが抜け出ていくような快感を毎日味わうことができる。

テント暮らしがしたいのなら陸上自衛隊をオススメする。東部方面隊では教育隊の総仕上げで富士の麓で7日ほどのキャンプを楽しむことができる。また、部隊によってまちまちではあるが定期的にテントの暮らしを経験することができる。毎日ではないところは玉に瑕ではあるものの、こういったアドベンチャーは偶にだからこそ楽しいというところがあるのではないだろうか。

「生活の不要なものを一掃して集中したい」

毎日本雑な日常を繰り広げているミニマリストに憧れる皆さんにまたまた朗報だ。なんと自衛隊ではそんなあなたの思考の中まで熱くサポートする体制が整っている。

日課は全て分単位で決めらている生活を三ヶ月間に渡ってみっちりその身に刻み込まれるまで繰り返し行われる。

繰り返すことによって家事がとてつもないスピードでこなせるようになり、結果あなたの自由時間がみるみるうちに増えていくことを感じることができる。まさにクオリティーオブライフがそこに展開されている。

さらに、自衛官はその一挙手一投足にまで意味を求めている集団で、あなたの頭にはもちろん体にもその意味を”丁寧に”教えてくれる。なぜ、アイロンをかけるのか、なぜ整理整頓していなくてはいけないのか。そんな疑問は教官の熱い指導によって払拭されることだろう。

なんのために生きているのかわからなくなっているあなたはそう! 自衛官になることがその答えだ。

自衛官はミニマリストか?

茶番はこのくらいにしたい。

ミニマリスト系ブログ各位の記事でこと表面的な技術的なものだけ参照すれば自衛官はミニマリストの具体例に見える。

ここでミニマリスト系ブログで日々発表される記事はどれも技術的なものがほとんどだと注釈しておきたい。

では自衛官はミニマリストか? 僕は絶対に違うと答える。

これは感覚でしか捉えられていないので言葉にうまく表現できない。

確かに入隊して半年は充実して、理想的な日々だったと僕は振り返り思う。

服務の宣誓というものに全自衛官は必ずサインしている。この宣誓をしなければ自衛官とは認められないことに法で決まっているからだ。服務の宣誓を荒っぽく言えば、「なんかあったら命かけられますか?」という問いに首を縦に振ることに他ならない。

そのなんかあった時のためだけに、1日1日を無駄にせず訓練を行う日々はまさに充実だった。それは身体にも健やかさが目に見えてわかったし、肝心の精神もカラッと晴れた日のような爽快なものだった。目的と行動が一致し、かつそれに邁進し、その目的が誰からも認められるような誠実なものだったからだ。苦しくてもへっちゃらだった。恐いものはなかった。

だが、部隊配属され、部隊は僕に僕自身のライフプランを考えさせた。また自衛隊で働き続けることを望んだ。そうなると日々の暮らしは僕のために行うような、目的が自然とすり替えられ以前と比べれば少し泥で汚れているようにそれはみえた。

昇級試験の訓練をやらされるのが苦痛で仕方がなかった。教育隊にいた頃はどんなに罵声を浴びさせられても、ゲロを吐いても、たとえ汗の一滴も出なくなっても走り続けたが、目的のすり替わった現実の前には「お前なってないな」とボソッとつぶやいた一個上の先輩のその軽口一つで、心が折れた。

僕が退職したのはちょうどそんな折に、山間で土嚢を楽しく運びすぎたせいか、気胸が発症し手術をしてから体力が目も当てられないほど落ちたからだが、タイミングもまた悪かった。もっと柔軟な精神、大きな視点を持っていればよかったのだろう。

何を捨てるだとか考えるのは徒労で、最小限にするのは物質それ自体ではなく、私心や欲などの感情の方に答えがあると、僕はそんな気がしてならない。

広告