据え膳云々で思い出したフェミニストな女との一夜

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据え膳食わぬはが盛り上がっているようで目についてふと昔京都でのフェミニストな女との一夜を思い出した。


この記事だ。ここで書かれていることは僕にとっては別世界の宇宙人な話にしか見えないので全くわからないのだが、この記事やその反応なりを眺めていて、京都は河原町で高校の同級の女と飲んだときのことを思い出した。

幼なじみの男がビルから飛び降りて死んで以来、毎年そいつの命日に僕は桂からバスで少しの墓へ行く。その帰りに折角京都に出てきたのだからと、ついでにそちらに出ているその女と飲むことが三回ばかり続き恒例のようになっている。

僕は女の知り合いが少ない。その中でも酒が飲めるのはもっと少ない。その女はもっと良く、店を任せると河原町でも裏通りの大衆居酒屋を選んでくれる。騒がしいワカモノは暖簾をくぐれない、そんな店だ。刺し身と季節柄おでんと熱燗を二合を頼んだ。おちょこを片手に僕はどうだ、お前はどうだ、あいつはどうなっただと話をする。

ただ毎年、積もって三度も会っていると情報交換は薄くなる。話は漠然とした人生の不安に傾いてくる。そんな折、女が「女の親友はあり得るのか?」と僕に問いかけた。

「無い。」と僕は言った。女の顔をみるに期待とは裏腹だったらしく女は男の親友を欲しているように見えた。女が友達と思っていたある男から体を求められたことを前もって聞いていたせいか、表情に写る心の輪郭にシャープネスの補正を知らずしらずかけたのかもしれない。僕はあの時にどう続けたのだろうか、「そのまま感情が歩いてしまう。」とそう言ったのだったろうか。同性ではそれまでだが、異性ではセックスという先が用意されているから思わず歩いてしまう、そのようなことを口走った。「女と親友はありえない。僕とお前は、マルマルやマルマル(僕の親友の名前)とは違う。お前とは親友にはなれない。」とも僕は言ったはずだ。

ただ、僕がどう言葉を尽くせど尚不服な女の瞳は印象深かった。紫煙のベールの奥のそのぼんやりとした眼は、「お前はどうなんだ?」と聞くよう無理強いさせた。女は「ある。と思う。」と答え、「そうだろうな。」と返した。

たこのぶつが室温までぬるくなったころ、銚子が四本立っていて程よく出来上がっていた。店を出ると夜風が厚く重たいPコートを突き抜けて刺さった。もう遅いから泊めてほしいと言わせるには十分だった。いや、待ち合わせた喫茶店から半ば決めていたことだった。背中を押すだけなら些細なそよ風で事足りるほどアンバランスな心持ちだった。

河原町の地下鉄から二駅、そこから歩いて三十分。駅からやけに道がある。繁華街が依然騒がしかったのは遠く、ここの夜道はやけに暗い。ぽつんと明るいコンビニエンスストアで飲み物を買った。つまみは少し家にあると言っていた。

女の部屋とは思えないひどく汚く散らかっている。学生寮で院が終わるというので来年には出なくてはいけないらしいところを頼み込んで伸ばしたと言っていた。ベランダもない牢屋のような間取りの1R。シンクには洗い物が残っている。ベランダはなく、すりガラスの出窓から注ぐであろうささやかな日光を頼りにしている南国生まれであろう観葉植物の葉の一部はすでに枯れかかっている。床にホオリ投げられた雑貨書籍その他をざっと避けて僕のスペースは確保された。僕がwifiの電波を借用している間に女はエキゾチックなスープをスープカップかコーヒーカップか見分けのつかない陶器で出してくれた。春雨が入っている。「ここだけ女っぽいな。」と毒を吐いてなかなかイケるとだけ言った。

夜中の三時くらいだろうか。酔い覚ましのもうホットではなくなったコーヒー片手に話したのは。話も一段落つき女はシャワーを浴びる。代わって僕も頂いた。いつから浴槽は洗われていないのか。シャワーカーテンが明かりを遮って余計汚れて見せたていた。西武新宿駅のヘルスのシャワーと大した違いはない。借りた寝間着姿でユニットバスから出ると布団がしかれていて、女はソファーで横になっていた。「こっちでいいんか? すまんな。」とだけ言って僕が床の布団に入ると女は電気を消した。女はスマートフォンをいじっていて顔だけ青白くぼぅっと浮かんでいる。後はカーテンの無い出窓から遠くの街灯の明滅が観葉植物に影をつけているのみだ。その光線は淡く、部屋は暗い。

スマートフォンの電源ボタンが小さくカチッと音がして最後、静かになった。時折寝返りを打つように布団の中で体を捻りこすれる音があるだけだった。冷蔵庫も電源を抜いているらしく、ジーという機械音も無い。

やけに目が冴えていたのは僕だけなのか。女はどうなのか。女の親友はあり得るのか。女に顔を向けると、綺麗な鼻筋のシルエットが際立っていた。何分、いや一時間は見ていたのだろうか。空白だった。電子機器が算出する量以上に入力がありフリーズしたような不純な空白だった。理性と戦った記憶はフリーズが解けた直後の数秒だった。「こっちに来てくれないか?」とぼそっと僕が言った。「寝たのか?」とも聞いた。答えを待っているといびきが聞こえてきたのでそのまま目をつむることにした。男と女の友情はやはり無い。

その日の昼に四条大宮の駅で別れた。それが昨年の冬。今年も冬が来る。

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